冬になり、スキーやスノーボードを楽しむ方が一気に増えてきました。久しぶりに雪山に立つ高揚感、澄んだ空気の中を滑り降りる爽快感は、ウィンタースポーツならではの魅力です。
一方で、この時期に整形外科を受診する外傷患者が急増するのも事実です。転倒やひねりによるケガは避けられない側面があり、「毎年この季節になるとどこかを痛める」という方も少なくありません。
スキー外傷の本当の問題は「骨」ではなく「関節の中」にある
ウィンタースポーツに関連する外傷というと、多くの方がまず骨折を思い浮かべます。転倒して手や足をつき、骨を折る――確かにスキー場では珍しくありません。
しかし、その陰でより多く見られるのは、骨折よりもむしろ靭帯・腱・軟骨といった柔らかい組織の損傷です。これらの組織は血流が乏しく自然治癒しにくいため、痛みが一時的に引いても損傷が残存しやすく、放置すれば慢性痛や関節変性へと進行してしまいます。
スキー外傷の中でも多く、後遺症につながりやすいのが「膝」

こうした特徴を踏まえると、スキー外傷の中でも特に注意すべき部位が膝関節です。滑走中のひねり動作や転倒による負荷が集中しやすく、靭帯や軟骨へのダメージが最も起こりやすい関節だからです。
スキー外傷の代表例が膝の前十字靭帯(ACL)損傷です。
ターン時の捻転や転倒によって発生しやすく、受傷直後の腫れが軽減した後も、不安定感や踏み込み時の恐怖感が残ることが少なくありません。
ACLは自然治癒が極めて難しい組織であり、損傷の程度によってはスポーツ活動のみならず日常の歩行にも大きな影響を及ぼします。完全断裂では強い腫脹と歩行困難を伴うため患者さん自身がすぐに異常に気づきますが、微細損傷や炎症レベルの軽症例では外見上の変化が乏しく、「そのうち治るだろう」と長期間放置されてしまうことも多くあります。
もう一つ重要なのが、膝の軟骨損傷や半月板損傷です。
関節内の軟骨は自己修復能力がほとんどなく、損傷を放置すれば将来的に骨の変形や関節破壊へと進行し、若年であっても変形性膝関節症のリスクが高まります。半月板も大きく断裂すれば強い痛みと腫れが生じますが、軽微な損傷や変性では症状が目立たず、知らないうちに関節への負担が蓄積していくケースが少なくありません。私も半月板を損傷していますので、この点は嫌というほど体験しています。
▼前十字靭帯(ACL)損傷と半月板・軟骨損傷の違い
| 主な役割 | 特徴的な違和感 | 放置のリスク | |
|---|---|---|---|
| 前十字靭帯(ACL)損傷 | 膝の前後・回転の安定性を保つ | ガクッとする(膝崩れ・不安定感) | 慢性的な不安定症、半月板の二次損傷 |
| 半月板・軟骨損傷 | 膝にかかる衝撃を逃がすクッション | 膝が伸びない・曲がらない(ロッキング) | 軟骨がすり減り、変形性膝関節症へ進行 |
「レントゲンで異常なし」が安心とは限らない理由
骨折と異なり、靭帯や軟骨の損傷はレントゲン検査では確認できません。
「骨は問題ありません」と言われ湿布や安静で様子を見ることになったものの、数週間経っても痛みや違和感が改善しない――その背景に組織損傷が隠れているケースは決して珍しくありません。立ち上がり動作や階段の昇降時に鈍い痛みや不安定感が続く場合は、重要な警告サインです。
痛みを抑える治療から、「組織を治す」治療へ
近年では、ご自身の組織の一部を用いて靭帯や軟骨の修復環境を整え、組織そのものの回復を促進する治療が注目されています。こうした治療は組織治療、ないし再生医療と呼ばれ、単なる鎮痛や安静ではなく、損傷組織の治癒力を高め、関節機能を根本から立て直すことを目的とする点が大きな特徴です。
PRP治療とは?
患者さんの血液から血小板を高濃度に濃縮した血漿を抽出し、患部に注射することで、組織の修復や再生を促す治療法です。

自分の血液を使うため安全性が高く、手術のような大きな負担がないことがメリットです。変形性関節症や腱のケガ、スポーツによる関節トラブルなどに幅広く用いられています。
▼詳細はこちら
NAG整形外科が大切にしている治療方針
NAG整形外科で私、南雲吉祥が最も重視していることは2つ、
“スポーツ整形専門の視点による評価”と”早期からの精密画像診断に基づく正確な損傷把握”です。
「とりあえず痛み止めを飲んで様子を見ましょう」という曖昧な対応で終わらせることは決してありません。受診された以上、できる限り早い段階で診断を明確にし、治療計画を立てます。運動を全て中止させ、自宅での安静を指示することもありません。
また、治療計画の中でも、再生医療には強いこだわりを持って取り組んでいます。単に流行だから行うのではなく、組織の状態を正確に評価したうえで、効果が見込めるケースに適切に用いることを徹底しています。
湿布だけ渡して経過観察、意図を明確にしない長期リハビリだけを続ける――そうした不明確な治療で貴重な回復時間を失わせることはしません。
私が目指しているのは、「痛みを取ること」だけではなく、「本来の動きに戻すこと」、そして「できる限りの運動を続けていくこと」だからです。
まとめ
スキー後に膝の違和感が残る、不安定感が続く、腫れを繰り返すといった症状は、決して軽視すべきではありません。早期に正確な評価と適切な治療を行うことが、その後のスポーツライフと日常生活の質を大きく左右します。「そのうち治るだろう」と我慢せず、膝に不安を感じた時こそ専門的な診療を受けてください。
スキーによる膝のケガでお悩みの方は、ぜひNAG整形外科へご相談ください。
記事の執筆者

NAG整形外科院長:南雲 吉祥
整形外科専門医、スポーツドクター。元は整形外科領域のがん治療医として活動。その後、米国で再生医療の研究に従事する。渡米中のケガをきっかけに、スポーツ医学の重要性を認識。帰国後、スポーツ外科医に転身する。
現在、アスリートを血液解析と再生医療を用いた医療技術でサポートする、「アスリートサポートプログラム」を展開中。紹介ページはこちら。

