幹細胞関節注射とは何?メリットやデメリット手順についても解説|幹細胞関節注射なら白金台のNAG整形外科

幹細胞とは何か

▲ 幹細胞とは(出典:SKIP

現在再生医療に用いられているほとんどの幹細胞は、人間の体内に存在する未分化細胞のことで、様々な種類の細胞に分化することができる多能性の細胞です。血流に乗って体内を循環しているものと、各組織に常駐しているものの2種類が存在します。今ではどの臓器・組織にも特異的に幹細胞が存在することが判ってきています。

幹細胞は自らを複製しながら特定の細胞に分化していく特徴を持ちます。自らを複製する能力を「自己複製能」、特定の細胞に分化する能力を「分化能」と呼び、幹細胞を特徴付ける重要な機能となっています。これに加え、幹細胞の特長なるいくつかの分子(細胞のマーカーと呼びます)を持って、幹細胞は定義されます。

幹細胞は、炎症等により損傷したあらゆる組織において、その組織と同じ細胞に分化し、組織再生や創傷治癒に役立っています。

幹細胞は大きく3種類に分かれる

  1.  全能性幹細胞

1個の細胞だけで個体を作り出すことのできる幹細胞で、受精卵のことを指します。

  1. 万能性幹細胞

体内のあらゆる細胞に分化することができる細胞です。初期受精卵から作成するES細胞(胚性幹細胞)や、京都大学の山中先生が発見された山中遺伝子を導入することで体細胞から作成するiPS細胞が、これに該当します。

  1. 多能性細胞(体性幹細胞)

内臓や皮膚などの特定組織において、損傷した細胞を補うために、新たな細胞を造り続ける細胞のことです。該当組織と同一の細胞を形成する能力があり、造血幹細胞であれば血液系の細胞、神経幹細胞であれば神経系の細胞へと分化します。しかし最近の研究では組織の壁を超えて、分化できることも明らかになっています。

幹細胞関節注射とは何か

幹細胞関節注射とは、炎症・損傷を起こした関節内に、ご自身の幹細胞を注射する治療法のことです。

通常、関節症の治療には、内服療法や理学療法のほか、ヒアルロン酸や副腎皮質ステロイドの関節注射が用いられてきました。これらの治療に反応性が悪い場合は多血小板血漿(PRP)関節注射が用いられ、それでも十分な治療効果が得られない場合に手術療法を検討することが一般的でした。

幹細胞関節注射は、こうしたPRP治療難治性の関節症に対して用いられる保存療法の一つとして、近年広がりを見せています。

幹細胞の採取・培養技術自体は歴史が古く、決して珍しいものではありませんが、高い培養技術を有する民間企業の台頭と、度重なる臨床研究による安全性の確立から、近年になって実臨床で用いられるようになってきました。

組織の採取経路にはいくつか選択肢がありますが、患者様の負担が少ない皮下脂肪から組織を採取し、幹細胞を分離・培養する場合が多く見られます。当院でも、組織採取は皮下脂肪から行なっています。

幹細胞関節注射の治療メカニズム

幹細胞関節注射の治療メカニズムは、PRP関節注射のそれと似ています。

PRP関節治療では、関節内に注射した血小板が次第に壊れていき(自壊と呼びます)、その際に放出された内部の成長因子(サイトカイン)が組織の炎症を抑え、強い除痛効果を発揮します。

幹細胞関節注射の場合も同様ですが、関節内に注射した幹細胞が生存中に各種の成長因子を放出して、損傷周囲組織の炎症を抑えることで除痛効果を発揮し、同時に組織修復を促します。しかし、幹細胞関節注射の場合は、PRP治療に用いる血小板と異なり、注入された幹細胞による損傷組織への幹細胞の誘導や、注入幹細胞自体が損傷細胞に一部分化することも期待されており、より強固な除痛作用や組織再生が得られるのではないか考えられています。

幹細胞関節注射の除痛効果

国内の報告では、変形性膝関節症に対する幹細胞関節注射によって、最大7割の疼痛改善効果が得られたとされています。

さらに、注射後に理学療法を併用することで、この除痛効果は更に増強することが確認されています。

幹細胞関節注射に厳密な適応症はありませんが、一般的には治療難治性の変形性関節症が該当すると考えられるため、理学療法併用の有効性は納得のいく結果と言えるでしょう。

注射する幹細胞数について

NAG整形外科では、1回あたり約2000万個の幹細胞を関節内に注射します。この細胞はご自身の組織から採取した幹細胞で、約1ヶ月かけて培養を行っています。

幹細胞関節注射による組織再生について

関節内に注射した幹細胞は、炎症を抑えます。さらに、破骨細胞と呼ばれる骨を分解する細胞の働きを抑えることで、骨の破壊を防ぐ効果も期待されています。

一方で、組織の再生については、未だに意見が分かれ、一定した見解が得られていません。

私たち体内の軟骨細胞は、一般的に成長期を過ぎた後は再生されず、加齢と共に緩やかに変性、損傷していきます。過去には、こうした損傷軟骨細胞に対して幹細胞を移植すると、移植幹細胞が軟骨細胞に分化し、軟骨修復が促進されるとする研究報告もありました。しかし、その多くはフラスコ上での細胞実験や、限られた成功例のみの症例報告であり、ヒトを用いた大規模研究で安定した同一の結果が得られているわけではありません。一方で、実際に軟骨再生を認めた症例があるのも事実ですので、幹細胞関節注射による軟骨再生能力を完全に否定することはできません。

こうした背景から、現状、NAG整形外科では幹細胞関節注射による除痛は、組織の抗炎症効果が主体であるとの見解でおります。

NAG整形外科における幹細胞関節注射の適応症

厚生労働省への再生医療申請の都合上、当院では膝関節のみへの治療とさせて頂いております。膝関節疾患について厳密な適応症はありませんが、一般的には治療難治性の変形性膝関節症が良い適応と考えています。

幹細胞関節注射後、効果が出るまで

幹細胞関節注射では、関節内に注射した幹細胞が種々の生体効果を発揮することで、除痛が得られます。ただ、投与した幹細胞がこうした働きを開始するには、少し時間がかかります。そのため、幹細胞を投与してから、実際に治療効果を体感するまでには、一般的に4週間程度の時間が必要とされています。

幹細胞関節注射はドーピングの対象外

幹細胞は投与部位に関わらず、ドーピングの対象外です。そのため、運動を行なっている方でも、時期を気にせず投与が可能です。

幹細胞関節注射のメリット

  • 細胞成分そのものを投与するため、継続的に成長因子の分泌が行われ、強力な抗炎症作用が期待できます。そのため、従来の標準治療やPRP関節注射などでも改善しない激しい痛みに良い適応と言えます。
  • ご自身の細胞を用いる為、アレルギー反応のリスクが少ないという特徴もあります。

幹細胞関節注射のデメリット

  • 幹細胞の原料となる脂肪組織を入手するためには、局所麻酔による小手術が必要となります。
  • 適正数の幹細胞を準備するには約1ヶ月の培養期間が必要となるため、幹細胞入手から実際の投与までには時間が空きます。
  • 幹細胞注射後、実際に除痛効果を体感するには4週間程度が必要です。
  • 本治療は保険治療の適応外で、自費診療です。

培養までの流れ

血液検査

ご自身に感染症がないかを調べるための検査を受けていただきます。万一感染症があると、細胞を培養して増やしていく過程で、感染症の原因となるウィルス・細菌も増殖させてしまうからです。

万一、感染症が確認された場合は、残念ながら本治療はお受け頂けません。

組織採取

  • 希望に添いますが、一般的に傷跡の目立たない鼠径部(股関節付近)を2cmほど切開し、皮下脂肪組織を採取します。採取する脂肪組織は米粒2-3粒ほどの量です。局所麻酔を用いるので、術中のお痛みはありません。
  • 切開部は縫合します。治療当日の入浴は控え、患部を極度に温めないようにお過ごし頂きます。
  • 1-2週間後に抜糸のため、一度来院いただきます。この時点では、まだ幹細胞関節注射は行えません。

細胞培養

採取した組織は、提携する培養施設に送ります。採取した組織から幹細胞を分離し、培養が開始されます。適正数の幹細胞を準備するには、約1ヶ月かかります。

幹細胞の関節内投与

組織採取から約1ヶ月後に来院いただき、幹細胞の関節注射を行います。

治療は外来で行います。これは、通常の関節注射と同じ手技で行いますので、特に麻酔などは用いず、数分で完了します。

投与後、局所の出血などがないことが確認できたら、当日はご帰宅頂けます。特に入院や、長時間院内で待機頂く必要はありません。

幹細胞関節注射の注意点

以下に該当する場合、幹細胞治療はご利用頂けません。

  • 血液検査で感染症が確認された場合:

この場合、幹細胞の培養過程で感染原因のウィルス・細菌も培養する(増殖させてしまう)ことになるため、安全性の理由から、幹細胞培養ならびに治療をお受けすることはできません。

また、以下に該当する場合は、原則として別の治療をご案内致します。

  • 未治療の関節症・筋腱損傷の方

まずは標準的な保険治療をご案内します。

一般的に、幹細胞関節注射は標準治療およびPRP治療の効果が乏しかった場合に推奨されます。そのため、まずは標準治療、その後にPRP治療を行い、いずれの効果も乏しかった場合に幹細胞関節注射をご案内いたします。

  • 他院で治療後であったとしても、適切な治療プロトコルを踏んでいないと判断した方:

    適切な画像検査が行われていない方:特に関節症の場合は、現状の詳細な把握にMRI検査が必要となります。他院で既に治療を行なっている場合でも、こうした詳細な画像検査が未施行の場合は、まずは画像検査を優先的に行なっていきます。

    適切な回数・内容の治療を行なっていない方:前医にて十分な治療が行われていない方、あるいは治療途中で自己中断している方については、まずは標準治療・PRP治療への反応を先に確認する必要があります。

また、以下に該当する方の内、罹患されている疾患の治療が、幹細胞治療より優先されると判断された方は、幹細胞関節注射は実施できません。

  • がん治療中
  • 感染症がある
  • 発熱がある
  • 薬剤過敏症がある
  • 免疫抑制剤を飲んでいる

幹細胞関節注射後の安静期間について

一般的に、投与部位については一定の安静期間が必要となります。負担がかかる動作を意識的に制限頂ければ、特に固定などは必要ありませんが、ご希望の場合にはサポーター等による固定をご提案致します。

また、投与後の具体的な安静期間については、活動状況に応じて判断致しますので、外来でご相談ください。

幹細胞関節注射の効果や副作用について

幹細胞関節注射の効果

幹細胞関節注射の効果は個人差があります。治療効果を左右する要因としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 投与時の関節変形の程度
  • 体重
  • 筋肉量
  • 食生活
  • 基礎疾患の有無
  • 日常生活における運動強度
  • 投与後の局所安静の程度

幹細胞関節注射の副作用

本治療はご自身の細胞を用いるため、アレルギーの危険性が少なく、重篤な副作用リスクが低いことが特徴です。

一方で、培養した幹細胞を注射した直後は、関節内圧の上昇から一時的に関節痛が強まる可能性があります。

幹細胞は関節内へ注射により投与するため、注射部位の痛みや腫れ、発熱など、注射に伴う一般的な副作用が生じるリスクがありますが、このリスク頻度はヒアルロン酸や副腎皮質ステロイドの関節内投与と同じ程度です。

幹細胞関節注射の費用や保険適用について

幹細胞関節注射の保険適用

現在、幹細胞関節注射は保険適用外です。そのため、本治療は採血費用を含め、自費診療となります。

NAG整形外科で幹細胞関節注射をご希望の方は
下記よりご予約ください。

記事の執筆者

NAG整形外科院長:南雲 吉祥
整形外科専門医、スポーツドクター。元は整形外科領域のがん治療医として活動。その後、米国で再生医療の研究に従事する。渡米中のケガをきっかけに、スポーツ医学の重要性を認識。帰国後、スポーツ外科医に転身する。現在、アスリートを血液解析と再生医療を用いた医療技術でサポートする、「アスリートサポートプログラム」を展開中。紹介ページはこちら

  • J Higuchi, et al.: Associations of clinical outcomes and MRI findings in intra-articular administration of autologous adipose-derived stem cells for knee osteoarthritis. Regenerative Therapy. 2020; 14: 332–340
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32490058/
  • D Hatsushika, et al.: Repetitive allogeneic intraarticular injections of synovial mesenchymal stem cells promote meniscus regeneration in a porcine massive meniscus defect model. Osteoarthritis Cartilage. 2014; 22: 941-950
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24795274/