NMNとは何か
NMNは体内で働く補酵素で、ビタミンの一種です。正式名称をニコチンアミドモノヌクレオチドといい、ビタミンB3に由来します。
元々、生命維持に必須の成分で、私たちの体内に一定量存在します。
体内ではNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)と呼ばれる補酵素に変換され、このNAD+が様々な生理作用を発揮します。
NMNは元々体内に存在する
NMN、およびNMNから変換したNAD+は私たちの生命活動において、非常に重要な物質です。そのため、私たちの身体はNAD+を合成する機能を備え持っています。これには、必須アミノ酸であるトリプトファンを原料としてNAD+を合成する経路や、生体反応に使われたNAD+の代謝産物を再利用する経路などがあります。
しかし、体内のNAD+量は年齢に伴い徐々に低下していき、40代では最大時の半分にまで減少します。この原因は、以下の複合的要因によると考えられています。
- NAD+合成の低下
- NAD+消費の増大
- 両者の組み合わせ
NAD+の役割
エネルギー産生の促進
私たちの身体を構成する細胞にはミトコンドリアと呼ばれる器官があり、日々の生命活動に必要なエネルギーを生成しています。NAD+はこのミトコンドリアで機能する酵素が正常に働くために必須な成分となります。NAD+が不足した場合、エネルギー産生回路の反応がストップし、体内へのエネルギー供給そのものが途絶えてしまいます。
睡眠改善
私たちの体内時計は、NAD+の濃度変化により影響を受けています。NAD+が不足した場合、概日リズムと呼ばれる生体の睡眠・活動リズムを司る遺伝子の発現が影響を受け、睡眠障害が発生します。
抗肥満作用
NAD+によるミトコンドリアでのエネルギー産生が促進されることで、体内のエネルギー代謝が上昇し、太りにくい身体となります。
ドライアイの改善
眼瞼(まぶた)やまつ毛の近くには、マイボーム腺と呼ばれる油分の分泌器官が存在します。瞬きする度にマイボーム腺からは油分が分泌されますが、加齢に伴いマイボーム腺の機能が低下すると、油分不足からドライアイ症状が出現します。ヒトを用いた臨床研究で、NAD+の増加がマイボーム腺の機能不全を改善し、ドライアイ症状を軽快することが確認されています。
2型糖尿病の改善
2型糖尿病のモデルマウスを用いた実験で、高脂肪食を与えたマウスは腸管でのGLP-1産生が障害され、血糖管理が不良となることがわかりました。そのため、体内のNAD+量を正常に保つことで、糖尿病のコントロールが容易になる可能性が指摘されています。2021年発売されたツイミーグという糖尿病治療薬は、NAD+量の産生増加を介して血糖値の上昇を防いでいます。
関節症変形の予防
NAD+に活性化されるサーチュイン遺伝子の一部は、関節内の軟骨細胞の分化・増殖に関与し、軟骨細胞の変性を抑制する可能性が報告されています。このサーチュイン遺伝子を欠損したマウスでは、関節軟骨の発現が著しく阻害され、変形性関節症の発症頻度が増加することが明らかとなっています。
筋組織の合成
老化によりミトコンドリア遺伝子の発現が低下した老齢マウスにNAD+前駆体を投与すると、筋組織中の幹細胞において、ミトコンドリア機能が改善し、自己複製能力と筋線維への分化能力が促進することが分かっています。この影響により、老齢マウスの運動機能にも改善が認められました。
神経機能の改善
アルツハイマー病のモデルマウスにNAD+前駆体を投与すると、大脳皮質のNAD+量が増加すると共にβアミロイドタンパクの産生が低下し、認知機能の改善が確認されました。βアミロイドタンパクは脳に沈着し、認知症の原因となる物質です。このため、体内のNAD+量を適正に保つことで、認知症の予防・改善効果が期待されています。
NMNに投与方法
現在、主に用いられている方法はNMN含有サプリメントの経口投与か、点滴による全身投与の2つです。
NMN点滴後、効果が出るまで
対象とする作用によって、効果発現までの時間は様々です。現状、多くの方が疲労改善目的でご利用されていますが、この場合は点滴翌日、起床と共に、それまで感じていた倦怠感が軽減していることを実感されるケースが多いようです。ドライアイ症状の改善は点滴直後から実感される方が多く見られます。
NMNはドーピングの対象外
NMNは投与経路に関わらず、ドーピングの対象外です。そのため、運動を行なっている方でも、時期を気にせず投与が可能です。
NMNのアンチエイジング効果
NMNについて検索すると、「アンチエイジング」「若返り」「老化予防」といったフレーズと共に紹介されるケースを多く認めます。
NMNによって誘導されるサーチュイン遺伝子は老化細胞のDNA修復に関与しているため、細胞老化の抑制から、若返り効果を謳っているのでしょう。
実のところ、サーチュイン遺伝子と細胞老化の関係は、研究者の間でも一定の見解が得られておらず、明言が難しい部分と考えています。また、ご覧頂くと分かる通り、上に記したNAD+の効果の中には動物実験等での確認に留まっているものが混在し、私たち人間の体内におけるNAD+の明確な効果は、まだ研究段階にあると言えます。
では、NAD+のアンチエイジング効果は、どう捉えれば良いのでしょうか。
現時点での私の見解は、以下の通りです。
NMNにはアンチエイジング効果がある
元来体内に存在し、年齢と共に量が減るNMNが、私たちの加齢・老化と密接に結びついていることは想像に難くありません。
NAD+の持つ有益な効果の一つがミトコンドリアにおけるエネルギー産生促進作用です。ミトコンドリアが作るエネルギー物質は、私たちの生体活動のあらゆる場面で必要となり、その中には細胞の産生・修復や、筋肉の収縮なども含まれます。
体内のNAD+量が増すことでエネルギー産生が潤滑に行われ、継続して運動を行うことが出来るようになる。その結果、筋量が増加すると共に、筋収縮で刺激を受けた骨の強度が増し、骨密度が増加していく。そして、運動に伴い体脂肪の減少が見られていく。
こうした一連の流れが、結果として若々しさに繋がり、アンチエイジング効果として出るのではないかと考えております。
一方で、若年者の場合は、体内に存在するNAD+量が潤沢であるため、日々トレーニングで極端にエネルギーを消費するようなアスリートを除き、NMN投与による効果を大きく体感しない可能性が考えられますが、脳神経はエネルギー源として糖質以外利用できないため、ミトコンドリアからのエネルギー産生に依存します。すなわち常に集中を強いられ、臨機応変に迅速な判断を要求される頭脳労働に従事する方には好ましいと考えております。
NMN点滴の安全性について
体内で合成可能なNMNですが、その正体はビタミンBです。製品として合成する場合は、枝豆やブロッコリー、アボガドなどから抽出し、加工しています。
NMNの製法には2種類ある
NMNの製法には、以下の2種類に分かれます。
化学合成法
NAD+前駆体と化学物質を反応させ、合成したNMNをリン酸化して生成します。生産性の高さにメリットがありますが、不純物混入のリスクや、体内では使用できない化学構造を持ったNMN合成される場合があります。この生体内不使用型のNMNは、従来のNMNと区別してα-NMMと呼ばれます(α-NMNに対し、従来型のNMNをβ-NMNと呼びます)。
酵母発酵法
ビールやホップなどの酵母菌をNAD+前駆体と一緒に発酵させることで生成します。化学物質が少なく、生体内で利用可能なβ-NMNを効率よく手に入れることができます。当院で使用するNMNは、こちらの製法で生成されています。
NMNの摂取量について
1日あたりの摂取量は100-300mgが理想とされています。
NMNは朝に摂ると効果的
体内のNAD+合成は日中に高まる事が分かっているため、NMNの摂取は朝が推奨されています。空腹時の経口摂取が吸収率に優れるという意見もあります。
NMN製剤の価格に大きな開きがある理由
NMN商品について調べると、比較的安価なものから非常に高額なものまで、製品ごとに金額に大きな開きがあることに気付きます。
この理由として、私個人は以下の2つが関係していると考えます。
1. 安価な商品は化学合成法を用いている
化学合成法は一度に大量のNMNを生成することが出来るため、大量生産に向いており、結果として商品価格を安価に設定することが可能となります。一方で、精製過程で有害な化学物質が混入するリスクや、体内で利用不可能なα-NMNが混入するリスクがあるなどのデメリットが見られます。
2. 記載通りのNMNが入っていない
NMNの1日摂取量は100-300mgが推奨されており、各社のNMN製品もこの範囲内に設定されていることが一般的です。一方で、特に海外製品の場合は、製造工程の管理が不十分なことも多く、パッケージに記載された量のNMNが必ずしも入っていない場合も考えられます。これは、NMMに限らず、多くの安価な海外製サプリメントに共通する問題です。
NMN点滴の副作用について
NMN投与について、これまで重大な副作用の報告はありません。点滴で投与するため、点滴による一般的な症状(注射部位の痛みや内出血など)が起きる可能性はあります。
NMN点滴は即日投与可能
事前の血液検査などは必要ありません。原則として、来院頂いたその日に投与を行い、そのままご帰宅頂けます。点滴にかかる時間は30分ほどです。
NMN点滴の頻度
NMN点滴の頻度に関し、決まった取り決めはありません。投与量にもよりますが、1ヶ月に1回ほどの頻度で受けられる方が多いです。
NMN点滴の料金について
NMN点滴は自費診療になります。料金については、料金表をご確認下さい。
NMN点滴の効果を最大化する方法について
NMN投与によってミトコンドリア機能が促進された後は、是非、生活に運動を取り入れることをお勧めします。回数を重ねるにつれて徐々に身体が活性化され、運動強度のアップが可能になると共に、疲れを翌日にもちこしにくくなるでしょう。また、睡眠の質が改善することによって、より運動を行いやすくなり、運動を行うことでミトコンドリアが継続的に活性化していく…というポジティブなサイクルに入りやすくなるはずです。
NAG整形外科でNMN点滴をご希望の方は
下記よりご予約ください。
記事の執筆者
NAG整形外科院長:南雲 吉祥
整形外科専門医、スポーツドクター。元は整形外科領域のがん治療医として活動。その後、米国で再生医療の研究に従事する。渡米中のケガをきっかけに、スポーツ医学の重要性を認識。帰国後、スポーツ外科医に転身する。現在、アスリートを血液解析と再生医療を用いた医療技術でサポートする、「アスリートサポートプログラム」を展開中。紹介ページはこちら。
参考文献
- J. Yoshino, S. Imai, et al.: Nicotinamide mononucleotide, a key NAD(+) intermediate, treats the pathophysiology of diet- and age-induced diabetes in mice. Cell Metabolism. 2011; 14: 528–536
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21982712/ - MP Gillum, et al.: Sirtuin-1 regulation of mammalian metabolism. Trends in Molecular Medicine. 2011; 17: 8–13.